政策系ゼミで立法提案をしてみたい!入門書は?

「学生が政策提言と法律案策定をするゼミを運営しているんだけど、何か良い入門書はありませんか」と、ある先輩からお問い合わせを受けた。少ない経験ながら、私の研究室にある本の中からご紹介することにしたい。結論から言えば、「(1)がお勧め、足りなければ(2)も。(3)はゼミ共通の参考書として手元にあると便利かもしれません。」という回答になる。

(1)倉阪秀史『政策・合意形成入門』勁草書房、2012


私が勤務している千葉大学法政経学部では、まさに「政策から法案をつくってみる」講義がある。その授業担当者による教科書である(つまり同僚の本)。
倉阪先生ご自身が11年間環境庁に勤務されていた経験(ご自身のウェブサイトによれば、「環境庁では、環境基本法と環境影響評価法の制定作業、温暖化、リサイクル、企業の環境対策、LCAなどの新規施策の立ち上げ時期の作業に携わりました」とある)を活かして、この本では単なる合意形成過程の議論だけでなく、政策立案と立法草案策定過程についても言及されている。とりわけ、環境法関連の法律をどう立ち上げていったのかという視点で書かれた部分は、これから政策提言をしようとする学生にとってはドキュメンタリーでもあり、見習うべき先例といえるだろう。
そのため、冒頭の質問に「1冊だけ、学生が買える値段」という縛りがついていて、かつ作るものが『法律』を想定しているのであれば、この本が一番マッチしている。
この講義の現在の位置づけは「政策学の入門科目」として1年生配当科目であり、(法政経学部が立ち上がったばかりということもあって)FDの観点から講義を聴講した。なんと「その場」である最近はやりのガジェットに関する法案をライブで作成するという講義であった。これは中間レポートの予告・実演であり、法学にも経済学にも政治・政策学にもあまりまだなじんでいない学生が、必死に中間レポート課題として法案を作成しているところを拝見して興味深かった。
なお、倉阪先生ご自身の研究領域は環境経済学・環境政策学であり、学術的な意味では法学との関連は薄い。そのため、本書も法令用語の取扱いや法学的な位置づけについては基本的なことは触れてあるもののあまり多くの頁を割いておらず、参考文献に委ねている。本学学生向けに、「続きは行政法と環境法でやるよー」と宣伝させていただきたいところ。
目次は勁草書房のウェブサイトに詳しく掲載されている。

(2)塩浜克也・遠藤雅之『自治体の法規担当になったら読む本』学陽書房、2014


もし、「法律案じゃなくて、条例案についてお願いします、できれば1冊で済むものを」ということであればこちら。
想定読者は地方公務員で、「法規担当」という例規審査を取り扱う部署に配属された新人をイメージしていると思われる。この本の良い点は、条文の構造や例規の構造というだけでなく、どのような目的の規定があるのかをわりと詳細に紹介したうえでそのポイントを示している点だろう。
また、審査しただけでは終わらず、議会対応や、法律相談・訴訟対応、さらには法規担当者の仕事術という章まである。具体的に条例をつくり、運用し、そしてそれらの相談窓口となる法規担当者の苦労ややりがいも感じさせる内容になっている。この本を知ったきっかけは、まさにそういう法規担当者のコミュニティからである。情報提供多謝。
章立てがわかる、出版社・学陽書房での紹介頁はこちら
なお、この本の著者の一人は行政法入門としても興味深い本も上梓している。それが吉田利宏・塩浜克也 『法実務からみた行政法 エッセイで解説する国法・自治体法』日本評論社、2014である。こちらは非常に読みやすいので、条例に興味がある学生全般にお勧め。

この目次は必見だと思う。日本評論社のサイトはこちら
第1章第2節 「ユニーク条例」の法的「適格性」~「朝ごはん条例」って何だ~とかね。

(3)吉田利宏・いしかわまりこ『法令読解心得帖―法律・政省令の基礎知識とあるき方・しらべ方』日本評論社、2009


法令自体について詳しくない学生への参考書としては、こちらの本を薦めたい。法情報学の基本となる部分に加えて、規定の読み方や、規定作りの失敗談なども交えた教科書とエッセイの中間のような本である。学生単独でも読みこなせるだろう。サブタイトルのとおり、使い方や調べ方に重点が置かれているが、「法令の形式」、「法文の技術」、「規定の流儀」という節タイトルからもわかるように、かなりみっちりと説明がされている。しかも作る人目線の著者(吉田利宏氏は衆議院法制局出身者)と調べることを教えるプロ目線の著者(いしかわまりこ氏は法情報学の専門家)ということで、バランスのいい構成になっている。
この本の部構成について出版社・日本評論社のサイトを参照されたい。

 

(4)立法学というキーワードも

こういう内容は私自身の経歴では「立法学」という講義がロースクールでは開講されており、そこでは衆議院・参議院法制局からの講師を招いて講義がされていた。なので、かっちりとした教科書を求めるのであれば、それをキーワードに探すことも検討していただきたい。内閣法制局や衆議院・参議院法制局経験者の著作もあれば、公法学による著作もある。
ただ、先輩の依頼としては政策系ゼミにおける立法立案パートの『入門書』ということだったので、今回は割愛。

おわりに

それにしても、「今日はゼミの先輩の本を参考書にしてディベートやったぞーそろそろakmykt.netのネタも投下したいし、書くかなあ」と思ってたら、当該先輩からの依頼でネタになるという事態にちょっとびっくりしている。そもそもディベートの話できるのも、サークルでやってたからだしなあ・・・(なお、倉阪先生はこのサークルの先輩だときいて着任後大変おどろいた)。ということで、どこで何があるかわからないので、学生には講義も課外活動もゼミも楽しんで血肉にしていただきたい。